
IoT/IoEがここ数年騒がれるようになり、様々なコンセプト商品が登場し、その一部は実際に販売もされ始めています。必然的にビッグデータと同じ議論で話題になることも多く各社がこの分野にいち早く参入し、リードしたいという思惑が見え隠れします。
本書では小林さんらしくマクルーハンの言葉が引用されていますが、私達は過去または現在に囚われがちで、to beという未来視点で物事を見る事が難しい生き物です。
そのため「ある行為のどこに注目し、どのようなデータを集めるのかは、なかなか難しい問題」であり、更に「それをどう加工することで、どのような情報が生まれるのかを考えることで、IoTシステムは思いがけない広がりを持つことになる」のです。
新サービスを立ち上げる時に同時に解析設計として「何のデータを取得すべきか」をいくら検討しても漏れが発生してしまいます。
また仮に様々なデータを取得出来るといった場合、そのデータから予測・最適化を行う作業を行うという局面ではデータは巨大化しやすい事からIoT / IoEは「ビッグデータ」と一緒の文脈で語られることも多いわけですが、to be視点で最初から「どのような情報」を取得するとどのような事象に対して予測・最適化が可能となるのか、最終的にユーザの生活・行動等の改善に繋がるのかが予測出来ている事が望まれたりしますが、それも非常に難しいと言わざるを得ません。
現在議論されているIoT / IoEの文脈は単純なInputとそのデータを途中クレンジングする処理は入るかもしれませんが、基本的には直接Outputする形が殆どのように感じています。これはIf This Then Thatの形式ですね。センサー等から情報を受けてそれをウェブやスマートフォンで見れたりと非常に単純なプロダクトが多いと感じます。
もちろん、この単純なInputとOutputだけで生まれる価値も沢山あるでしょうが、今後はもう少し様々分岐したり必要なデータを組み合わせて価値を生むというパターンが増えていくと思います。このあたりについては色々と考えてみたのですが、ハードとソフトの両方の知識があるととても良いような気がしたりしています。
図ではManageと書いてしまいましたが、InputのManageではなく受け取った情報を組み合わせて新しい価値をOutputするような…。なんて書けば良いんでしょうね。
ハード面でのON/OFFというインタラクションが即座にソフトウェアの0 / 1に頭のなかで変換出来るとか、圧力を例えば0 -> 100の尺度で表せるとか、そういうハードとソフトがくっついて知識として存在していること、そしてソフトウェアのLoop文やCase分岐などの知識があることで、例えばドアの解錠例にもある通り、インクリメントした数字が奇数だったら解錠、偶数だったら施錠みたいな実にコンパクトなシステムをつくり上げることも出来るのです。
そういう意味でハード的な知識とソフト的な知識が両方ある方がサービス展開としては強いのではないかと思ったりしています。本書内での
山手線トレインネットの仕組みは本当に面白いですね。
調べたことは無かったものの電車の回生ブレーキシステムをそのままソフト側で「混雑率」としてデータを利用すると。これこそまさにハードとソフトが組み合わさりソフト面ではユーザが「欲しい」と思われるようなOutputの仕方だなと思ってしまいました。

また本書内で登場する解錠・施錠のようなドアの例が登場するわけですが、「
Akerun」の具体例を見ていて咄嗟に「
さよなら、インタフェース」という本を思い出し、"なんでスマートフォンの画面操作が必要なの?"と思いました。
Akerunについては本書で初めて知ったので認識が違うのかもしれませんが、ドアの解錠・施錠操作にスマートフォンが必要な理由は何か?という点については「
さよなら、インタフェース」で具体的に指摘されているわけですが、ユーザ操作は不要なのではないかと思うのです。
サービス思想としてユーザ側で作業しなくてもコンテキスト情報などを使って自動化出来るものは完全に自動化し、インタフェース自体を無くす事を目指すという考え方が「
さよなら、インタフェース」の主張であるわけで、尽くインターフェースを無くせと書かれている訳ではないのですが、この考え方はとても重要なのではないかと思っています。
スマートフォン操作というタッチポイントが無くなると、ブランディングという意味では厳しいのかもしれませんが、UX観点ではこのアプローチがとても良いと思います。
即ち、スマートフォンとドアの鍵がBluethoothやWifiなどで通信することによって解錠/施錠処理がプロセスとして完結可能であるならば、ユーザがスマートフォンを立ち上げてアプリを立ち上げた後にボタンを押すみたいな「作業」は一切無くすべきだという思想です。
例えばAndroidだとこの「
Tasker」というアプリがあります。実はこのアプリを使って少しずつ擬似的にNo Interface化していたりします。
私の登録例を一部紹介すると、自宅にいるときにつかむ携帯会社アクセスポイントをTaskerに登録しておき(自動検出してくれます)、そのアクセスポイントに接続したらWifiを自動的にONにするように設定してあります。
即ち、自宅に近づいた時点まではWifiはOFFの状態ですが数百メートルまで近づくとWifiの設定が自動的にONになります。さらにWifiがONの状態で自宅のWifiを掴んだら「自宅にいる」と判定し、着信音量設定がバイブレーションモードから音声ONに切り替わリます。
これと同じようにコンテキスト情報をうまく利用することで自動化出来るものって身の回りに沢山ありますよね?
IoT / IoEではそのような世界が望まれるのではないのでしょうか?1社のアプリでは難しい気もしているので本当はPlatform側がそういう連携の仕組みを推進すべきではないかと思ったりしますが。
また本書ではカーシェアリングサービスについても書かれており、その部分でも少し気になる部分がありました。
サービス利用ユーザが車を返却時にガソリンを全く入れなかった…などのマイナス面については次に利用するユーザが前のユーザを評価し、ポイントを下げたり上げたり~という仕組みの部分です。
最初はOnline上における人の評価という意味で若干"ソーシャルDRMっぽいしイイかも!"と思ったのですが、なぜ利用ユーザへデメリットを押し付けるのでしょうかと直ぐに思いとどまりました。
もちろん車メーカーとの交渉なども必要な産業のようなので、そういうサービスに留まっているのかもしれません。
でも個人的には「即時フィードバック」を上手く使うべきだと思うのです。
例えば人は水道を使っている時にリアルタイムで水道料金をデジタルで表示してあげると節水を心がけるようになるでしょうし、電気も室内にコントロールパネル的なものを配置し利用料金をリアルタイムに表示してあげると節電を心がけるでしょう。
今は電力会社社員しか見ないということで電気メータもイケていないデザインで何十年と変化がありませんが、インテリアの一部のようなおしゃれなデザインで部屋に持ち込む事で節電も心がけるでしょう。他にも「即時フィードバック」により行動を改善するという実例は沢山あります。
カーシェアリングサービスに関して"車内を汚した"とかの評価に関しては「即時フィードバック」は無理かもしれませんが、ガソリンを入れる入れないという部分や運転の荒さなどに関しては即時フィードバックしながら、その場でポイントが見えたりなどを行うと、利用者自身の行動が変わったりすることはあると思うのです。
もっと言えばレンタルする時間が事前に分かっており、かつ車のGPSデータも分かると思うので、レンタル残り時間が短いとか、カーナビの設定場所としてレンタルサービススポットが設定されたとか、車の位置とスポットとの距離が移動によって継続的に短くなっているなどの情報を活用することで、自動的にガソリンスタンドがカーナビの寄る場所としてセットされて誘導されたり、音声アナウンスされたりと色んなサービス展開が出来るはずだと思ったりします。
即時フィードバックという視点では、そういうハード的なサービスではなく「ウェブサービス」を考えた場合も非常に少ないと思う事があります。ビッグデータとして企業に蓄えるという議論は多いのに、閲覧ユーザの行動からリアルタイムにコンテンツを変えていくような。いや、AdobeとかCXENSEとかもそうなのかな?実際あるにはあるけど少なすぎる。少なくともGoogleはやっていないような気がします。
またサードレール問題である個人情報・プライバシーに関しても少し言及しておきたいと思いますが、IoT / IoE分野について今議論されているようなサービスでは「情報コントロール」の主導権がユーザに無いことこそが問題だと常々考えています。
企業側として全ての情報を取得したいという気持ちはもちろん分かりますが、現状の企業はユーザを見ていないとしか思えません。
以下簡易的に描いた図はフワッとしてしまっておりますが、例えば病気の情報などのセンシティブ情報に関してはデバイスとユーザだけで共有され、企業側のDBには蓄積されないというデバイスからの即時フィードバックのみに止め、行動情報などはビッグデータとしてサーバに蓄積するなど、情報レベルによって保持する場所や扱い方を制御出来ないかと思っていたりします。
もちろん端末データ破損や端末自体の紛失でデータが全て失われる事で提供サービス自体の価値が失われてしまうという問題はあるでしょうが、現在個人情報を気にしてユーザが企業に提供したくないという事だけで、そういうセンシティブ情報を元にしたサービスが全く生まれないという環境もどうかと思ったりします。
様々なインセンティブを見せることで提供を促すという現在行われているような努力を企業が一生懸命継続するというのも分からなくもないですが…。
また公共的な意味で、提供される情報によって犯罪が未然に防げたり、何かの役に立つのであればそれを明示すれば提供する人は多くなると思いますので、センシティブ情報でも取得したい場合はそういう用途をどんどん開示すべきなのでしょう。
情報を提示することで「広告が最適化されます!」とか、そういった内容だと個人的に広告は基本的にブロックしたい立場なので全く提供したくなかったりします(苦笑

情報を提供することによる「パーソナライゼーション」的なサービス展開もあるとは思いますが、ユーザ固有のページや見せ方の話をするときにいつも思い出すのが「
UNIXという考え方」ですね。
UNIX文化の一つとして「好みに応じて自分で環境を調整できるようにする」という思想が書かれています。その内容は「UNIXのユーザーは、自分の思いどおりに環境を手直しすることを好む。UNIXアプリケーションの多くは、その対話スタイルの選択についてユーザー
に広い自由度を与えている。」と説明されています。
一般的に議論される「パーソナライゼーション」は自分で環境を調整するという能動的なものではないかもしれませんが、"カスタマイズされた環境"という意味では同一のような気もしますし、その環境がユーザにとって有益なものであればユーザがそのサービスから離れ難くなる可能性があると思います。
UNIX思想のようにユーザ側で設定を変更することでカスタマイズ出来るという方が良いのかもしれませんが、そのようなカスタマイズというのは今のウェブサービスとしては時代と逆行しているのかもしれません。その辺りはバランスなのかもしれませんが。
色々と読んでいてあーだこーだと考えを巡らせてきましたが、本書を読んでいると自社サービスについて色々と新しいサービスを思いつくこともあるでしょう。
「
Akerun」の方のInterviewにあったように「マスト・ハブ(絶対に必要なもの)」と「ナイス・トゥ・ハブ(あればうれしいもの)」という意味では今現在のIoT / IoE分野で登場するサービスは後者の方が圧倒的に多いと思いますが、前者側のサービスを提供するにはどうすればよいのか、もう一度考えていく必要がありますね。
※そういえば
802.11ah HaLowの名称も正式に決定となり今後省電力でのWifiというものも一気に広がっていきそうですね
小林啓倫
朝日新聞出版
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